院長ブログ『メラトニンと加齢の関係』
2023/05/08
新緑の美しい季節になり、日差しの強さを感じる日も増えて参りました。
今年は花粉の飛散量も例年より多かったとのことで、アレルギー症状や薬の眠気で苦労している方も多かったかと思います。
また、新年度になり、環境の変化があった方も少なくないのではないでしょうか。
環境の変化はストレスを増強し、疲労感を増大し、またそれは老化につながるかもしれないと報告があります。
本日は、メラトニンとアンチエイジングについて言及させて頂きますので、ご一読頂ければ幸いです。
まず、なぜメラトニンの話をするかをご説明致します。
酸化ストレスは、生体の酸化反応と抗酸化反応のバランスを崩し、活性酸素の産生を促進し、生体機能を障害することで、老化や疾病をもたらします。
この活性酸素の中に、ヒドロキシラジカル、スーパーオキシドなどの一部のフリーラジカルが含まれます。
これらのフリーラジカルは強い酸化力を持っているため、脂肪やタンパク質を変性することで構造の変化をもたらし、また筋細胞や自律神経細胞を損傷し、疲労の蓄積、さらには老化に繋がります。
この抗酸化作用を防ぐことで、アンチエイジングが期待されます。
抗酸化作用がある代表的な物質は、ビタミンEや還元型コエンザイムQ10などですが、メラトニンにも抗酸化作用があります。
メラトニンのフリーラジカルの除去能力は、グルタチオンの約5倍という報告もございます。
そのため今回は、メラトニンがどのような点でアンチエイジングに役立つのか検討したいと考えました。
メラトニンとは、主に松果体から産生されるホルモンで、睡眠や体内時計に関連し、光で合成が抑制されること、分泌リズムのタイミングが変化することが知られています。また、メラトニンは、松果体以外に、腸管、骨髄、血小板、皮膚、水晶体などでも産生されることが近年発見され、様々な臓器でホルモンとして機能していると考えられております。
睡眠は健康や疲労回復に関連し生活習慣病予防に繋がり、老化防止に効果的です。
メラトニンは催眠作用があり、日本でも睡眠薬として臨床的にも用いられております。
また、メラトニンの催眠作用はGABA神経系に作用しないため、依存性、転倒や薬剤性の認知機能障害などのリスクが低く、安全性が高いと考えれております。
さらに、メラトニンは、体内時計の改善効果がある日本で唯一の睡眠薬です。
メラトニンは、睡眠の改善のためアンチエイジング効果があるとも考えられますが、先程ご説明したように抗酸化作用があり、またその代謝産物も抗酸化作用を有し、さらにメラトニンは水溶性・脂溶性のため核、ミトコンドリア、細胞質など細胞内の広い範囲でフリーラジカルの除去ができ、スーパーオキシド・ジスムターゼ(SOD)などの活性酸素の除去を行う酵素の産生作用もあり、それらの作用のためアンチエイジングをもたらすと考えられます。
メラトニンの入った水を飲むことで、マウスの寿命が23.8ヶ月から28.1ヶ月へ延長し、若い状態を維持したという報告があります。なぜメラトニンがアンチエイジングをもたらすのか、現在一貫した理由は明らかとなっておりませんが、先程説明したようにフリーラジカルの除去による効果と考えられます。
アンチエイジングに関連する因子の一部に、骨年齢や神経年齢などがあげられるという説があります。
マウスにメラトニン投与したことで、破骨細胞(骨を溶かす骨吸収を行う細胞)や骨芽細胞(新しい骨の組織を作る細胞)に作用し、骨吸収の低下と骨量の増加が認められ、骨密度と骨量が増加することが知られます。
また、神経年齢の評価として高次機能検査を行っているアンチエイジングドックがあります。
認知症での不眠の合併が多いこと、日中の過度の眠気が認知症のリスクを増すことなどが知られており、睡眠と認知機能の関連があることは明らかです。
認知症の多くを占めるアルツハイマー病型認知症の原因は、脳にアミロイドβというタンパク質が溜まることが原因と考えられております。なぜ人間は睡眠をとるのか、現状明らかとなっていないことも多いですが、眠っている間に脳の中やその周りを流れる脳脊髄液が循環することが近年明らかになりました。
この時に、アミロイドβなどの老廃物が除去されているかもしれないと報告されております。
メラトニンの内服で、脳内のミクログリアやリソソームがアミロイドβを貪食する能力が増し、クリアランスが改善します。
また、メラトニンが脳内で代謝された代謝産物であるAMK(N1-acetyl-5-methoxykynuramine)が、学習や記憶形成に重要であることがわかりました。
AMKは、形成された記憶が消失しないうちに作用することで記憶を固定し、長期記憶への移行を促進することが、研究で明らかになっております。
上の図は服部らの研究から引用した図で、学習を行ったマウスをAMK投与群と対象群(非投与群)に分け、学習の効果を1日後と4日後で評価した結果です。
左の図Cでは、若年マウスを対象にしておりますが、AMK投与群は1日後の時点で対象群よりも記憶スコアが高く、4日後まで効果が認められました。
右の図Dでは、老年マウスを対象にしておりますが、若年マウスと同様の結果が出ており、記憶力の低下したマウスでも長期記憶形成が促進されました。
さらに、メラトニンは年齢とともに低下し、ヒトでは、1~3歳が最も多く、思春期以降減少し、70歳を超えるとピーク時の10%程度になります。
そのため、老化マウスではmelatonin pathwayが低下しています。
Melatonin pathwayとは、メラトニンの合成経路のことで、このpathwayの調整が睡眠障害、うつ病などの気分障害に関与するという報告もありますが、うつ病の治療ガイドラインで言及されてはおらず、まだ一貫したエビデンスには弱いかもしれません。
メラトニンは、夜間の光刺激で分泌が抑制されるため、夜間のスマートホンやPC、タブレット操作などには注意が必要です。
メラトニンは、睡眠に作用するのみならず、抗酸化作用、骨密度や骨量の改善、記憶形成に関与し、アンチエイジング効果が示唆されます。
日中は明るい環境にいて夜間の光刺激を避けること、規則正しい生活を送ることなどでメラトニンの自然な分泌を促進することや、サプリメントなどの外部からの補充で、アンチエイジングや健康改善に促進的な効果が期待できるかもしれません。
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